その症状、筋肉の不調かも?






◆筋肉の緊張とは?

筋肉の緊張は、筋線維が持続的に収縮し、リラックスできていない状態を指します。この状態は、精神的ストレス、長時間の同一姿勢、寒冷、交感神経の興奮などによって引き起こされ、筋肉が断続的または持続的に収縮しているのが特徴です。交感神経の興奮が優位になると、筋肉の活動が増加し緊張が高まりやすくなります。生理学的には、筋の収縮に関わるアクチン・ミオシンの結合が解消されない慢性的な筋の緊張状態です。


◆コリとは?

コリは、筋肉が緊張し続けることにより血流が低下し、酸素や栄養の供給が不足し、同時に老廃物や発痛物質(ヒスタミン、ブラジキニン、乳酸など)が蓄積し筋肉内の代謝が障害されます。このような代謝異常はポリモーダル侵害受容器を活性化させ、痛みやだるさ、不快感などを引き起こします。特に深層筋においては、この状態が慢性化しやすく、脳で痛みの感受性が高まる「中枢性感作」も関与するようになります。


◆硬結(トリガーポイント)とは?

筋緊張やコリが慢性化すると、一部の筋線維が収縮したまま解けなくなった状態が現れます。これが硬結、あるいはトリガーポイントと呼ばれる状態です。トリガーポイントは、筋膜や筋線維内にできる微小な収縮箇所であり、触診ではゴリッとしたしこりのように感じられます。また、トリガーポイントは関連痛と呼ばれる現象を引き起こすことがあり、局所の刺激が離れた部位に痛みとして投射されることもあります。


◆トリガーポイント鍼治療の効果

トリガーポイント鍼治療は、筋肉の中に形成されたトリガーポイントを物理的に直接刺激し、筋収縮の異常を解除することを目的とした治療法です。細い鍼をトリガーポイントに刺入することで、局所的な筋の収縮箇所に微小損傷を与え、筋線維を弛緩させる生理反応を引き起こします。この際に「局所的筋収縮反応(響き感、得気)」が見られることがあり、これは治療箇所が当たっているかの目安ともなります。

鍼刺激によって誘発される反応には、局所の血流改善、鎮痛物質の放出、血管拡張、脊髄レベルでの痛覚抑制(ゲートコントロール理論)などが含まれます。また、鍼を刺すこと自体が神経過敏を鎮静する効果も報告されています。

特に、筋膜や深層筋のトリガーポイントは手技療法やストレッチでは届きにくいため、鍼による直接刺激が非常に有効とされています。継続的な治療により、筋の柔軟性回復や関節可動域の改善、痛みの軽減、運動パフォーマンスの向上が期待できます。


◆阿是穴(あぜけつ)治療の効果

阿是穴治療は、経絡・経穴にとらわれず、痛みや不快感を患者が自覚する「ここが痛い・効く」と感じる部位に鍼灸を行う方法です。この治療法は、実際の症状の発現部位を重視し、患者の身体感覚に合わせたアプローチであるため、即効性と納得感が得られやすい特徴があります。

阿是穴とされる部位には、多くの場合、筋肉のコリや硬結が存在しており、前述のトリガーポイントと重なることも多いです。したがって、阿是穴治療もまた、局所の血流促進、筋緊張の解除、神経反射による鎮痛、内因性鎮痛物質の放出といったメカニズムによって効果を発揮します。とくに慢性痛や筋筋膜性疼痛において、患者の訴えに直接応じるという点で、臨床的な信頼性と柔軟性の高い治療法です。

また、阿是穴治療では、個々の体の状態に合わせて刺入の部位・深さ・刺激量を調整できるため、一般的な経穴治療よりも自由度が高く、個別対応に優れています。これにより、局所の反応を引き出しやすく、より直接的な効果を期待できます。




◆まとめ

筋肉の緊張は、筋線維の持続的な収縮によって始まり、それが血流の低下を招き、コリとなって現れます。コリが慢性化すると、筋の一部が異常な収縮を続け、硬結すなわちトリガーポイントが形成されます。これらの筋の異常は、筋収縮・血流・代謝・神経伝達といった多くの生理学的因子が複雑に関与した結果であり、慢性痛や運動制限の原因にもなります。

トリガーポイント鍼治療と阿是穴治療は、こうした筋肉異常に対して非常に有効な介入手段であり、局所の代謝と血流を改善し、筋緊張を緩和し、神経系の過敏性を沈静化することによって、筋肉の正常な機能回復を促します。生理学的根拠に基づいたこれらの治療法は、単なる対症療法ではなく、筋の深部から改善を目指す有効な方法です。